令和6年4月1日、今日から不動産の相続登記の申請が義務となります。

これまでに発生した相続についての相続登記は令和9年3月31日まで、これから発生する相続(※)については相続発生と自己が相続人であることを知った時より3年以内に登記を申請しなければなりません。正当な理由がないのにこの義務を怠ると、10万円以下の過料になる可能性があります。

期限までに相続登記を申請できない場合、相続人申告登記という簡易的な登記をすることにより、申請義務を果たしたものとみなされることになります。

相続登記の申請義務化については、以前記事にしましたので詳しくはこちらをご覧ください。

相続登記の申請義務化について①背景と概要
https://hamashihou.livedoor.blog/archives/24961390.html
相続登記の申請義務化について②遡及適用・遺産分割協議
https://hamashihou.livedoor.blog/archives/25293298.html
相続登記の申請義務化について③過料と「正当な理由」
https://hamashihou.livedoor.blog/archives/25479116.html
相続登記の申請義務化について④相続人申告登記
https://hamashihou.livedoor.blog/archives/25802790.html

※令和6年3月31日までに発生した相続でも、知った日が令和6年4月1日以降であれば、その日より3年となります。

東日本大震災と福島第一原発事故の発生から13年が経ちました。犠牲になった方に改めて哀悼の意を表するとともに、被災者の方、今なお不自由な避難生活を強いられている方にお見舞い申し上げます。

昨年の3月11日のブログ記事を振り返ると、冒頭でトルコ・シリア地震のことに触れていました。今年は能登半島地震という大きな震災の発生から始まりました。日本中で、世界中で災害が発生し、被災されている方がいることを改めて痛感します。

記事のサムネイルでいきなりラーメンの画像が出ていて「3月11日の記事なのに、濵口は一体何を考えているんだ!」と思われたかもしれませんが、今年の記事は少し趣向を変えて。このラーメンは岩手県大船渡市の有名店「黒船」のラーメンです。埼玉県所沢市のところざわサクラタウンにある「ラーメンWalkerキッチン」に出店していたので、昨日いただきました(出店は今日までです。)。

これまでの東北復興支援で数え切れないほど東北に赴き、現地のお店で食事をしました。昼間は司法書士会の仮設住宅巡回相談で被災者の対応を真剣に行い、夜は三陸の美味しい食事に舌鼓を打ちながら、現地の方といろいろな話をしたことを思い出します。現地を何度も訪れるうちに、再訪するのが楽しみなお店がいくつもできました。復興の進展に伴って移転するお店や新規開店のお店もありました。担々麺で有名な陸前高田市の「熊谷」は、最初の訪問の時は陸前高田司法書士相談センターの近くの復興商店街のプレハブでしたが、今は陸前高田中心部にあるまちなかテラスに移っています。移転したのを見て「ああ、再建が進んできてるんだなあ」と感慨深く思いました。しかしながら、訪れた店の中には、事情により閉店・廃業したお店もありました。震災で再開すらままならず廃業せざるを得なかったお店もいくつもあることでしょう。

被災地の経済の復興は非常に重要なことです。被災地で再び仕事ができるようになって、初めて復興(のひとつ)と言えるでしょう。その一方で、多くの場所で過疎化が進む中、場合によっては「この被災地でそれまでと同じように経済を復興させることがいいことなのか」という議論もあり、実際、そういう意見を耳にしたこともありました。

私は震災復興支援で初めて三陸や福島の浜通りを訪れました。食事だけでなく風土や文化など、接するもの初めてばかりで、大変刺激を受けました。できることならばこの素晴らしいものがこの先も引き継がれていくことを願い、そのためにも地域経済の復興を願っています。被災地の復興に尽力する大学時代からの友人の活躍や、その他多くの人の頑張りを見るにつけて、そう思います。

この記事を書いている時に、平成23年に宮城県気仙沼市のある避難所で相談を受けた時の声を思い出しました。
「贅沢は言わない。ただ同じ場所でまた同じ商売がしたいだけなんだ。」

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久しぶりの災害法制シリーズです。
今回は災害対策基本法のうち、被災者台帳についてです。
能登半島地震では、広域避難者に対する支援について被災者台帳の作成と活用が政府から示されています。
内閣府防災担当「令和6年能登半島地震における被災者台帳の作成及び台帳情報の利用・提供並びに広域避難者の支援に係る情報の連携について」(令和6年1月29日)

罹災証明書の交付が法定化された平成25年の改正時に、第90条の3で被災者台帳の作成、第90条の4で被災者台帳の情報の提供と利用について定められました。

1.被災者台帳の概要
被災者台帳は「被災者の援護を実施するための基礎とする台帳」であり、災害が発生した場合に、被災者の援護を総合的かつ効率的に実施するため必要があるときは、市町村が作成することができます。罹災証明書の発行が(申請に対する)義務であるのに対し、被災者台帳の作成は市町村の判断に委ねられています。
作成が義務ではないため、能登半島地震ではその作成を政府が被災市町村に対して促しています。

2.被災者台帳の記載事項
被災者台帳の記載事項は以下の通りとなっています。
①氏名
②生年月日
③性別
④住所又は居所
⑤住家の被害その他市町村長が定める種類の被害の状況
⑥援護の実施の状況
⑦要配慮者であるときは、その旨及び要配慮者に該当する事由
 (以上、法第90条の3第2項各号)
⑧電話番号その他の連絡先
⑨世帯の構成
⑩罹災証明書の交付の状況
⑪市町村長が台帳情報を当該市町村以外の者に提供することに被災者本人が同意している場合には、その提供先と実際に提供した日時
⑫被災者台帳の作成にあたりマイナンバーを利用する場合には、その被災者のマイナンバー
⑬この他、被災者の援護の実施に関し市町村長が必要と認める事項
 (以上、災害対策基本法施行規則第8条の5各号)

特徴的な記載事項としては、⑤住家の被害その他市町村長が定める種類の被害の状況、⑥援護の実施の状況、⑦要配慮者であるときは、その旨及び要配慮者に該当する事由、⑩罹災証明書の交付の状況があります。

被災者台帳の作成にあたっては、作成に必要な限度で
・被災市町村内での被災者情報の(本来の情報保有目的とは異なる)目的外利用での収集(法第90条の3第3項)
・関係市町村等への被災者情報提供の求め(同条第4項)
ができるとされています。

3.被災者台帳の情報の利用・提供
被災者台帳に記載された情報は、次のような利用・提供ができます。

(1)他の市町村等への提供
他の市町村等から被災者台帳の情報の提供の申請があった場合、被災者台帳を作成した市町村が行う被災者の援護に必要な限度で、当該市町村等に台帳情報を提供することができます。これには本人の同意は不要です。(法第90条の4第1項第3号)
この情報の提供先としては都道府県も含まれており、平成25年の伊豆大島土砂災害では、東京都大島町が作成した被災者台帳の情報が東京都に提供されています。

(2)地方公共団体以外への提供
本人の同意がある場合は本人の被災者台帳の情報を民間の支援団体等、地方公共団体以外の者に提供することができます。また、本人に提供することもできます。(同条同項第1号)

(3)市町村内での目的外利用
被災者台帳を作成した市町村が、被災者への援護の実施に必要な限度で台帳情報を内部で利用するときは、情報の保有目的以外の目的で台帳情報を利用することができます。

4.個人情報保護について
個人情報については、「本人直接収集」「目的内利用」「当該部署内利用」が原則となります。例外として、一定の要件で「本人以外からの収集」「目的外利用」「第三者提供」が可能となる場合が多くの自治体の個人情報保護条例で定められています。その要件は
①本人の同意
②法令等の定め
③人の生命、身体、健康または財産に対する危険を避けるため緊急かつやむを得ない場合
の3つです。

例えば、被災者台帳作成のためにその市町村内の他の部署や、他の市町村等から情報を得ることは「本人以外からの収集」になります。
情報提供元がその情報の収集にあたって、被災者台帳作成のために他部署や他の市町村等に情報提供することを利用目的として明示していなければ「目的外利用」になります。
台帳情報を他の市町村等へ提供することは「第三者提供」になります。

これらを可能にするのが災害対策基本法の定めであり、「②法令等の定め」によるものです。
(ただし、既出のように必要な範囲内でという災害対策基本法上の制限があります。)

5.被災者台帳の活用と課題
被災者台帳を作成し、必要な情報を集約し一元化させることで、被災者の状況の把握と適切な支援の実施が期待できます。また、IT化により、より迅速かつ効率的な台帳の作成、情報の集約と活用が図られることでしょう。しかし、被災者台帳の根幹となる情報の集約については、規模の大きい災害であればあるほど難しくなっているのが実情です。今回の能登半島地震のように広域避難が生じていると、避難元の市町村が被災者の情報の収集が難しくなります。

広域避難を例として、災害対策基本法の範囲内でできるとされているのは
①避難「」市町村→避難「」市町村等 への(台帳作成のための)被災者情報提供の求めとそれに基づく情報提供
②避難「」市町村等→避難「」市町村 への台帳情報提供の求めとそれに基づく情報提供
となります。

これを踏まえると、
③避難「」市町村等が独自の被災者データベースを作成するための避難「」市町村への被災者情報提供の求め
④避難「」市町村等の独自の被災者データベース情報の避難「」市町村への提供
は災害対策基本法の範囲外となります。この場合は、個人情報保護法や条例の原則に立ち戻ることになります。

③についてはハードルを下げることは厳しいかもしれませんが、④は被災者台帳での情報集約・一元化のためのフィードバックの大きなハードルとなります。市町村同士、市町村と都道府県の情報連携が十分に図られなければ、行政からの支援や支援情報、避難元の市町村の情報が届かなくなり、被災者の生活再建において非常に大きな障害となります。支援が必要な被災者ほど、改めての同意を得ることが難しい状況であることも十分に想定し得ます。

適切かつ効率的な支援のために、関係する市町村等が必要な限度において情報を共通化させておくことは非常に重要と考えられますが、その是非も含めて、今後の広い議論に期待したいところです。

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